大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和49年(く)13号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、申立人提出の昭和四九年一〇月一一日付即時抗告申立書および同年一一月二五日付、同年一二月二日付、九日付、一六日付各即時抗告申立補充書にそれぞれ記載されたとおりであるが、その骨子は概要つぎのごとくである。

(一)  刑事訴訟規則二八六条は、再審請求について決定する場合には再審請求をした者およびその相手方の意見を聴かなければならない旨規定し、これは、再審請求を受けた裁判所が再審請求をした者およびその相手方から、口頭による意見を聴取しなければならないことを定めたものと解されるが、原審は申立人の再三にわたる申出にもかかわらず、本件再審請求をした申立人からも検察官からも口頭による意見聴取をしていない。(二)本件確定判決が証拠として挙示する、第二回公判調書中証人〈略〉の各供述部分は、いずれも偽証であることが証明されているのに、原決定はこれを看過している。(三)右判決が同様挙示する訴状副本一通は検察官太田実が変造したもの、同じく鑑定人春日馨の筆跡鑑定書三通は同鑑定人が右検察官に強いられて作成した虚偽のものであつて、これらの事実は申立人の提出した証拠によつて明らかであるにもかかわらず、原決定はこれを認定せず、また、もしもこの点の証明が十分でないとするならば、原審としては森井博文、右の鑑定人および検察官、申立人らを取調べたのち再審請求につき決定をすべきであるが、原審はそのような取調べもしていない。(四)右の訴状副本の変造および筆跡鑑定書の虚偽の点に関連して、(イ)原決定は、申立人の提出した原決定証拠表符号四四の証拠(右飯渕あて差出人赤松芳雄名義の封筒および書面の各写しの謄本)を従前の再審請求事件の証拠として提出され、裁判所の判断を経ているものとしているが、右証拠は申立人が本件再審請求にあたつて新たに下付を受けた謄本であるから、原決定の右摘示は事実を誤認したものであり、(ロ)原決定は、同じく四〇の証拠(申立人発信にかかる春日馨あて書面および同人作成の昭和四八年一〇月一八日付回答書)につき、その内容は昭和三八年(た)第一号および昭和四一年(た)第一号各再審請求事件における右春日に対する審尋の結果とまつたく同趣旨であつて、新たに付け加える何ものもない旨摘示しているが、これもまた事実を誤認したものである。以上のように、原決定は訴訟手続に違反しておこなわれ、かつ事実を誤認してもいるので、その取消を免れない、というのである。

そこで、本件再審請求事件記録、押収物ならびに函館地方裁判所昭和二九年(わ)第三四二号確定判決事件記録、同裁判所昭和三八年(た)た第一号、第二号、同三九年(た)第一号、同四一年(た)第一号および昭和四六年(た)第一号各再審請求事件記録を調査し、所論の点につき順次検討する。

(一)  原審は申立人および検察官に対し、昭和四八年一〇月六日付の各求意見書を発して本件再審請求について意見を求めたが、申立人に対する求意見書には「意見は書面に記載して提出されたい。」旨が付記されていたこと、検察官は同月一一日、申立人は同月一五日それぞれ右の求意見に応じて意見を書面にして提出したこと、申立人は右の意見書中で、さらに口頭による意見陳述を聴取するように求め、その後も繰り返えし同様の要求をしたが、原審はこれを容れることなく原決定をするにいたつた(もつとも、申立人からは右の意見書のほか、再審申立補充書、上申書、歎願書等きわめて多数の書面が提出されている。)

しかし、刑事訴訟規則二八六条は、再審請求を受けた裁判所に対し請求をした者、相手方等から意見を聴くことを義務づけているが、その意見聴取の手続については法規上なんら限定を加えていないから、裁判所は事件処理上適切と考える方法によつて所定の者から意見を聴けば足りるのであつて、口頭によつて意見を陳述させるか、書面による意見を徴するかなど、意見聴取の具体的方法のいかんは裁判所の裁量にゆだねられ(同条にいう「聴く」は慣用される法令用語であつて、その字義上、所論のように口頭の意見陳述を直接耳で聞き取ることのみを意味するものではない。)、また、意見を聴かれるべき者から意見聴取の方法について申出があつても、裁判所がこれに拘束されることはない、と解される。このように解してみても、再審請求およびその相手方に意見陳述の機会を与え、再審手続を実効あらしめようとする右同条の制定目的を没却することにはならないし、再審手続の進行に関する請求者やその相手方の利益に格別の支障を生じさせるおそれもないと考えられる。所論は仙台高等裁判所昭和四六年(く)第二二号同四八年九月一八日決定(判例時報七二一号一〇四頁)を援用しているが、同決定は所論にそう趣旨を述べているものとはみられない。

そうしてみると、原審は申立人に対し書面によつて意見を述べるように求め、また、申立人のした、口頭による意見陳述の機会を与えるようにとの申出にも応じていないが、これに原審の裁量の範囲を逸脱したとすべき特段の事情は認められないので、原審の右措置を目して違法と批難することはできず、その他、原審の申立人および検察官に対する意見聴取の手続に違法のかどは見出せない。

〈以下省略〉

(粕谷俊治 横田安弘 宮嶋英世)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例